第1回:AWS構築とは何か?~クラウド活用の第一歩:定義、メリット、課題を理解する~
はじめに:本連載の目的とAWS構築の重要性
デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれて久しい現代において、クラウドコンピューティングは企業活動の根幹を支える不可欠なテクノロジーとなりました。その中でも、アマゾンウェブサービス(AWS)は、世界中の多くの企業や組織に採用され、圧倒的なシェアと充実したサービス群でクラウド市場を牽引し続けています。スタートアップから大企業、政府機関に至るまで、AWSはその柔軟性、拡張性、信頼性によって、イノベーションの加速、コスト効率の改善、そしてグローバルな事業展開を強力にサポートしています。
しかし、AWSが提供する数百にも及ぶ多様なサービスを前に、「どこから手をつければよいのか」「自社の課題解決にどう活かせるのか」と戸惑いを感じる方も少なくないでしょう。AWSの真価を引き出すためには、単に個々のサービスを知るだけでなく、それらを組み合わせてビジネス価値を生み出す「システム」をいかに構築し、運用していくかという視点が極めて重要になります。これが本連載のテーマである「AWS構築」です。
「AWS構築」と聞くと、単にサーバーをクラウド上に用意することだけをイメージされるかもしれません。しかし、現代のAWS構築はそれよりもはるかに広範で奥深い活動を指します。それは、ビジネスの目標達成に向けて、AWSの特性を最大限に活かしたシステムアーキテクチャを設計し、セキュリティを確保し、コストを最適化し、そして継続的に運用・改善していくという、戦略的かつ包括的な取り組みなのです。
本連載「AWSシステム構築マスターシリーズ:計画から最適化までの完全ガイド」では、この「AWS構築」について、その基礎から実践的なノウハウ、さらには成功のための重要な考慮事項に至るまで、体系的かつ網羅的に解説していきます。AWSをこれから学びたい方はもちろん、既に利用しているものの、より効果的な活用方法を模索している方にとっても、実践的な知識と洞察を得られる内容を目指します。
この第1回では、まず「AWS構築とは何か」という基本的な問いに立ち返り、その定義、範囲、そしてAWSを活用することで得られる主要な利点と、向き合うべき潜在的な課題について深く掘り下げていきます。クラウド時代のシステム構築の第一歩として、AWS構築の全体像を掴み、その可能性と留意点をしっかりと理解することから始めましょう。本稿が、皆様のAWS活用の礎になることを願っています。
AWS構築入門
アマゾンウェブサービス(AWS)は、クラウド上でサーバー、ストレージ、データベース、ソフトウェアといった多種多様なITリソースをオンデマンドで利用可能にするクラウドコンピューティングプラットフォームである1。本稿では、このAWSプラットフォーム上にシステムやアプリケーションを設計、展開、運用する一連の活動を指す「AWS構築」について、その定義、範囲、主要な利点と課題、そして成功に不可欠な考慮事項を包括的に分析する。
1.1. 「AWS構築」の定義:AWSでシステムを「建てる」とは
「AWS構築」とは、AWSが提供する広範なクラウドサービス群を活用して、特定のビジネス要件や技術的目標を達成するためのシステムアーキテクチャを設計し、実際にリソースをプロビジョニングし、設定、展開、そして運用していくプロセス全体を指す1。
この定義には、いくつかの重要な側面が含まれています。
まず、「AWSが提供する広範なクラウドサービス群を活用して」という部分です。AWSは、仮想サーバー(Amazon EC2)、オブジェクトストレージ(Amazon S3)、リレーショナルデータベース(Amazon RDS)、NoSQLデータベース(Amazon DynamoDB)、ネットワーキング(Amazon VPC)、機械学習(Amazon SageMaker)、データ分析(Amazon Redshift, EMR)、IoT(AWS IoT Core)など、数百種類に及ぶサービスを提供しています。AWS構築とは、これらのサービスの中から最適なものを選択し、パズルのピースを組み合わせるようにして、目的とするシステムを作り上げていく行為と言えます。
次に、「特定のビジネス要件や技術的目標を達成するためのシステムアーキテクチャを設計し」という点です。単にサービスを並べるだけでは意味がありません。「どのようなシステムを作りたいのか」「それによってどのようなビジネス価値を生み出したいのか」という目的が明確でなければ、適切な設計は不可能です。例えば、高い可用性が求められるシステムであれば、複数のアベイラビリティゾーン(AZ)にまたがる冗長構成を採る必要がありますし、大量のデータをリアルタイムに処理する必要があれば、それに適したストリーミングサービスやデータベースを選択する必要があります。このように、要件に基づいて最適な構造を考える「設計」がAWS構築の中核をなします。
そして、「実際にリソースをプロビジョニングし、設定、展開、そして運用していくプロセス全体」という部分です。設計図が完成したら、次はその設計に基づいて実際にAWS上にリソース(仮想サーバー、データベースインスタンス、ネットワークなど)を確保(プロビジョニング)し、必要な設定を行い、アプリケーションを配備(デプロイ)します。しかし、それで終わりではありません。システムは稼働し始めてからが本番であり、日々の監視、パフォーマンスの最適化、セキュリティアップデート、障害対応といった「運用」が不可欠です。AWS構築は、この運用フェーズまで含めた、システムライフサイクル全体をカバーする活動なのです。
具体的に含まれる活動としては、以下のようなものが挙げられます。
- 仮想サーバー(Amazon EC2インスタンスなど)のセットアップと構成
- ストレージソリューション(Amazon S3バケット、Amazon EBSボリュームなど)の選択と設定
- データベース(Amazon RDSインスタンス、Amazon DynamoDBテーブルなど)の構成と管理
- ネットワーク環境(Amazon VPC、サブネット、ルートテーブル、セキュリティグループなど)の設計と構築
- セキュリティ対策(IAMによるアクセス管理、データの暗号化、WAFによる保護など)の実施
- アプリケーションのデプロイメントと継続的インテグレーション/デリバリー(CI/CD)パイプラインの構築
- システムの稼働状況の継続的な監視(Amazon CloudWatchなど)とパフォーマンス最適化
- バックアップ戦略の策定と災害復旧(DR)計画の準備
ここで重要なのは、単に従来のオンプレミス環境で行っていたインフラストラクチャ管理作業をクラウドに移行する(リフト&シフト)だけでなく、「クラウドネイティブなアプローチ」を取り入れ、AWSの特性を最大限に活かしたシステムを構築することが、現代のAWS構築における重要な側面であるという点です。クラウドネイティブとは、クラウドの利点(スケーラビリティ、弾力性、可用性、従量課金など)を最大限に活用するように設計されたアプリケーションやサービスのアプローチを指します。例えば、サーバーの存在を意識しないサーバーレスアーキテクチャ(AWS Lambdaなどを使用)や、小さなサービスを組み合わせてシステムを構築するマイクロサービスアーキテクチャなどがこれに該当します。このようなアプローチを採用することで、変化に強く、効率的で、革新的なシステムを構築することが可能になります。
1.2. AWS構築の範囲:ウェブサイトから機械学習まで
AWS構築の範囲は極めて広範であり、その適用領域は多岐にわたります。AWSが提供するサービスの多様性と柔軟性により、個人の小規模なウェブサイトホスティングから、グローバル企業が展開する複雑な多層アプリケーション、テラバイト級のデータを扱う大規模データ分析プラットフォーム、最先端の機械学習ソリューション、そして無数のデバイスを繋ぐIoTバックエンドシステムに至るまで、あらゆる種類のシステム構築を包含します。
AWSは700種類を超えるとも言われる詳細なサービスを提供しており2(注:サービスの数は常に変動しており、主要なサービス群とその組み合わせで考えるのが一般的です)、これらのサービスを適切に組み合わせることで、ほぼ全てのITニーズに対応可能であると言っても過言ではありません。
具体的な活動範囲の例をいくつか見てみましょう。
- ウェブサイト・ウェブアプリケーション構築:
- 静的なウェブサイトであれば、Amazon S3とAmazon CloudFront(CDNサービス)を組み合わせることで、非常に低コストかつ高速でスケーラブルなホスティングが可能です。
- 動的なウェブアプリケーションであれば、Amazon EC2やAWS Elastic Beanstalk、コンテナサービス(Amazon ECS/EKS)、あるいはサーバーレスのAWS LambdaとAmazon API Gatewayを利用して構築できます。データベースにはAmazon RDSやDynamoDBがよく用いられます。
- WordPressのようなCMS(コンテンツ管理システム)の構築も、これらのサービスを利用して容易に行えます。
- エンタープライズアプリケーション構築:
- 基幹システム(ERP、CRMなど)のインフラストラクチャとしての利用。オンプレミスからの移行や、クラウドネイティブな再構築が含まれます。
- 高いセキュリティとコンプライアンス要件を満たすためのネットワーク設計(VPC)、アクセス管理(IAM)、監査ログ(CloudTrail)などの活用。
- 災害対策(DR)サイトの構築や、事業継続計画(BCP)の実現。
- 大規模データ分析プラットフォーム構築:
- 様々なソースからのデータを集約するデータレイクをAmazon S3上に構築。
- AWS Glueを用いたETL(抽出・変換・ロード)処理。
- Amazon AthenaによるS3データへの直接クエリ、Amazon Redshiftを用いたデータウェアハウスの構築と分析。
- Amazon EMRを用いたApache SparkやHadoopといった分散処理フレームワークの実行。
- Amazon QuickSightによるデータの可視化とビジネスインテリジェンス(BI)の実現。
- 機械学習(ML)ソリューション構築:
- データの準備からモデルのトレーニング、デプロイ、推論までを一貫してサポートするAmazon SageMakerの活用。
- 画像認識(Amazon Rekognition)、音声認識(Amazon Transcribe)、自然言語処理(Amazon Comprehend)といったAIサービスAPIの組み込み。
- 高性能なGPUインスタンスを利用したディープラーニングモデルの開発。
- IoT(モノのインターネット)バックエンドシステム構築:
- 多数のデバイスからのデータ収集・管理を行うAWS IoT Core。
- デバイス認証とセキュリティ。
- 収集したデータのリアルタイム処理(AWS Lambda、Amazon Kinesis)と分析。
- デバイスへのコマンド送信やファームウェア更新。
- ゲーム開発プラットフォーム:
- スケーラブルなゲームサーバーの構築(Amazon GameLift、EC2)。
- リアルタイムデータ分析、プレイヤー行動分析。
- グローバルな低遅延配信(CloudFront)。
これらはほんの一例に過ぎません。AWS構築の活動範囲には、上記のシステムタイプを実現するための、より具体的なタスクも含まれます。例えば、システム全体の目標を定める要件定義、AWSサービスをどのように組み合わせるかを考えるアーキテクチャ設計、個々のサービスを選定するサービス選定、セキュリティポリシーを策定し実装するセキュリティ設計、コストを予測し最適化する計画を立てるコスト最適化計画、インフラ構成をコードで管理するインフラストラクチャのコード化(IaC)、アプリケーションの変更を迅速かつ安全に反映するためのデプロイメントパイプラインの構築、システムの安定稼働を支える監視体制の確立、そして日々の運用ルールを定める運用管理プロセスの策定などが挙げられます。
このように、AWS構築の範囲は、ビジネスのアイデアを形にするためのあらゆる技術的側面をカバーしており、その深さと広がりはAWSプラットフォームの進化とともに拡大し続けています。
1.3. AWS構築の主な利点:コスト削減、柔軟性、可用性など
AWS上でシステムを構築・運用することにより、従来のオンプレミス環境では得られにくかった多くの利点が得られます1。これらの利点は、企業がより迅速に、より効率的に、そしてより革新的にビジネスを進めるための強力な推進力となります。主要なものとして以下の点が挙げられます。
- 初期費用の削減と従量課金制:
- 物理的なサーバーやネットワーク機器、データセンター設備などを自前で購入・所有する必要がないため、システム導入時の初期投資(CapEx)を大幅に抑えることができます1。これは特に、資金調達が限られるスタートアップや新規事業にとって大きなメリットです。
- 多くのAWSサービスは従量課金制(Pay-as-you-go)を採用しており、実際に使用したコンピューティングリソース、ストレージ容量、データ転送量などに応じて費用が発生します1。これにより、需要の不確実性が高い場合でも、過剰な投資を避けることができます。従来のオンプレミス環境では、将来のピーク需要を見越してインフラをサイジングする必要があり、結果としてリソースが遊休化することも少なくありませんでしたが、AWSではこうした無駄を最小限に抑えられます。
- 例えば、ウェブサイトのトラフィックが少ない時間帯はサーバーの稼働台数を減らし、キャンペーンなどでアクセスが急増する際には自動的にスケールアップするといった運用が可能です。これにより、特にオンプレミス環境からの移行においてコスト削減効果が大きく期待できます。
- 柔軟なサイジングとスケーラビリティ:
- CPU、メモリ、ストレージといったコンピューティングリソースを、ビジネスの要求に応じて数分で柔軟に増減できます1。オンプレミス環境では、リソース増強に数週間から数ヶ月かかることも珍しくありませんが、AWSでは管理コンソールやAPIを通じて迅速に対応可能です。
- オートスケール機能を設定すれば、トラフィックの増減やシステムの負荷状況に応じて、EC2インスタンスなどのリソースを自動的に調整(スケールアウト/スケールイン、スケールアップ/スケールダウン)できます2。これにより、予期せぬアクセス急増による機会損失を防ぎつつ、リソースを過剰に確保することによるコスト増も回避できます。
- 例えば、eコマースサイトがセール期間中にアクセスが集中する場合、オートスケール機能によって自動的にサーバーが増強され、快適な購買体験を提供できます。セール終了後は自動的に元の規模に戻り、コストを最適化します。
- 高い可用性と災害耐性:
- AWSは、世界中に分散したデータセンター群である「リージョン」と、各リージョン内に存在する複数の独立したデータセンターである「アベイラビリティゾーン(AZ)」を有しています1。これらの地理的に分離されたインフラストラクチャを活用することで、単一のデータセンターで発生した物理的な災害(地震、火災、停電など)や大規模障害によるシステム全体の停止リスクを大幅に低減できます。
- 例えば、主要なシステムを複数のAZにまたがって冗長構成でデプロイ(マルチAZ構成)することで、一方のAZで障害が発生しても、もう一方のAZでサービスを継続できます。Amazon RDSなどのマネージドサービスでは、マルチAZ配置が容易に設定可能です。
- さらに、異なるリージョンにバックアップデータを保管したり、フェイルオーバー環境を構築したりすることで、広域災害への対策も可能です。これにより、障害発生時も迅速な復旧が可能となり、ビジネス継続性の向上に大きく寄与します。
- 堅牢なセキュリティ:
- AWSは、物理的セキュリティからネットワークセキュリティ、データ暗号化、アクセス管理に至るまで、多層的かつ高度なセキュリティ機能とコンプライアンス認証(ISO 27001、SOC 1/2/3、PCI DSSなど多数)を提供しています1。これにより、企業は自社で同等レベルのセキュリティ体制を構築するよりも効率的に、高いレベルのセキュリティを確保できます。
- AWSのデータセンターは厳重な物理的アクセス管理下にあり、ネットワークインフラはDDoS攻撃などからの保護機能を備えています。また、IAM(Identity and Access Management)による詳細なアクセスコントロール、VPC(Virtual Private Cloud)による論理的に分離されたプライベートネットワーク空間の構築、データの暗号化(保管時および転送時)、AWS WAF(Web Application Firewall)によるウェブアプリケーションの保護、Amazon GuardDutyによる脅威検出サービスなど、利用者側で設定・活用できるセキュリティサービスも豊富に用意されています3(※元テキストでは侵入検知システムと記述)。
- ただし、セキュリティは「責任共有モデル」に基づいており、AWSが基盤部分のセキュリティを担保する一方で、クラウド上に構築するアプリケーションやデータ、OS、ネットワーク設定などのセキュリティは利用者側の責任となることを理解する必要があります。
- 迅速なグローバル展開:
- AWSのグローバルインフラストラクチャ(多数のリージョンとエッジロケーション)を活用することで、世界中のユーザーに対して低遅延でサービスを提供できるアプリケーションを容易に構築できます2。
- 例えば、日本の企業が北米やヨーロッパ市場にサービスを展開したい場合、現地のAWSリージョンに数クリックでサーバーをプロビジョニングし、アプリケーションをデプロイできます。これにより、物理的なデータセンターの建設やリースといった時間とコストのかかるプロセスを経ずに、迅速な市場参入が可能です。
- Amazon CloudFrontのようなコンテンツ配信ネットワーク(CDN)を利用すれば、世界中に分散されたエッジロケーションにコンテンツをキャッシュし、各地域のユーザーに最も近い場所から高速に配信できます。
- イノベーションの加速:
- AWSは、機械学習(ML)、人工知能(AI)、IoT、サーバーレスコンピューティング、データ分析、ブロックチェーンといった最新のテクノロジーを、初期投資を抑えて容易に利用できるサービスとして提供しています。
- これにより、企業は新しいアイデアやビジネスモデルを迅速に試行し、検証することができます。従来であれば高価なハードウェアや専門知識が必要だった分野でも、AWSのマネージドサービスを活用することで、実験のハードルが大幅に下がります。
- 例えば、Amazon SageMakerを使えば、機械学習モデルの構築、トレーニング、デプロイを効率化できます。AWS Lambdaのようなサーバーレスサービスは、インフラ管理の負担なくコードを実行できるため、開発者はアプリケーションロジックの実装に集中できます。このような環境は、企業が市場の変化に素早く対応し、競争優位性を確立するためのイノベーションを加速させる上で非常に重要です。
これらの利点は、AWS構築が単なるインフラ調達手段ではなく、ビジネス戦略を実現するための強力なエンジンとなり得ることを示しています。
1.4. AWS構築における潜在的な課題と考慮事項
多くの利点がある一方で、AWS構築にはいくつかの課題や注意すべき点も存在します。これらを事前に理解し、対策を講じることが、AWS活用の成否を分けると言っても過言ではありません。
- コスト管理の複雑さ:
- 従量課金制はメリットである反面、利用するサービスやリソース構成、データ転送量、リクエスト数などを正確に把握・管理しないと、予期せぬ高額請求につながる可能性があります3。特に、多数のサービスを組み合わせたり、大規模なシステムを運用したりする場合、コスト構造は複雑になりがちです。
- 例えば、開発環境で起動したまま放置されたEC2インスタンス、不要になった大量のS3データ、デバッグ目的で有効にした詳細モニタリングなどが、意図せずコストを押し上げる要因となることがあります。不要になったリソースを停止・削除しないと課金が継続される点にも注意が必要です3。
- 対策としては、AWS Cost ExplorerやAWS Budgetsといったコスト管理ツールを活用して利用状況を常に監視し、コスト配分タグを適切に付与してコストの内訳を明確化することが重要です。また、定期的なコスト最適化レビューを行い、インスタンスのライトサイジング(適切なサイズへの変更)、リザーブドインスタンスやSavings Plansの活用、ストレージ階層化などを検討する必要があります。
- 専門知識の必要性:
- AWSは非常に多機能であり、前述の通り数百を超えるサービスが存在するため2、その機能を最大限に活用し、セキュリティが確保され、コスト効率が高く、パフォーマンスが最適化されたシステムを構築・運用するには、高度な専門知識と経験が求められます3。
- 各サービスの特性、料金体系、ベストプラクティス、サービス間の連携方法などを理解するには、相応の学習時間と実践経験が必要です。特に、クラウドネイティブなアーキテクチャ設計や、DevOps、IaC(Infrastructure as Code)といった新しい運用手法を取り入れるには、従来のオンプレミス中心のスキルセットだけでは対応が難しい場合があります。
- 対策としては、AWS認定資格の取得を目指した体系的な学習、AWS公式ドキュメントやトレーニングの活用、社内での勉強会の実施、あるいは経験豊富なAWSパートナーやコンサルタントの活用などが考えられます。
- セキュリティの責任共有モデル:
- AWSはクラウド基盤(データセンターの物理セキュリティ、ハイパーバイザーなど)のセキュリティを担保しますが、クラウド上のアプリケーションやデータ、OS、ネットワーク設定、IAM(Identity and Access Management)による権限管理などのセキュリティは利用者側の責任となります4。これを「責任共有モデル」と呼びます。
- このモデルを正しく理解せず、AWSを利用すれば自動的に全てが安全になると誤解していると、設定ミスが重大なセキュリティホールに繋がる可能性があります。例えば、S3バケットの公開設定ミスによる情報漏洩、セキュリティグループの不適切な設定による不正アクセス、IAMユーザーの過剰な権限付与などが挙げられます。
- 対策としては、責任共有モデルを正確に理解し、自社が責任を持つ範囲に対して、IAMによる最小権限の原則の適用、データの暗号化、ネットワークアクセスの適切な制御、定期的な脆弱性診断、セキュリティイベントの監視といった対策を講じる必要があります。
- ベンダーロックインの可能性:
- AWSの特定のサービス(特にLambda、DynamoDB、SageMakerといったAWS独自の高度なマネージドサービス)に深く依存したシステムを構築した場合、将来的に他のクラウドプロバイダーやオンプレミス環境への移行が技術的に困難になったり、コストがかさんだりする可能性があります。これをベンダーロックインと呼びます。
- 一方で、AWSのマネージドサービスを利用することで得られる開発速度の向上や運用負荷の軽減といったメリットは非常に大きいため、ロックインのリスクとこれらのメリットを天秤にかける必要があります。
- 対策としては、可能な範囲でオープンソース技術や標準化されたインターフェースを採用する、コンテナ技術(Docker、Kubernetesなど)を活用してポータビリティを高める、移行計画を念頭に置いたアーキテクチャ設計を心がける、といった点が考えられます。しかし、現実的にはある程度のロックインを受け入れつつ、AWSのメリットを最大限に享受する戦略が採られることも多いです。
- 目的設定の重要性:
- 「クラウド化がトレンドだから」「競合他社が導入しているから」といった曖昧な理由でAWS構築を進めると、期待した効果が得られないばかりか、かえってコストが増加したり、運用が複雑化したりするリスクがあります。導入目的が曖昧なままAWS構築を進めると、不要なサービスを選定したり、逆に必要な機能が不足したりするリスクがあるのです3。
- 自社のビジネス課題やシステム上の課題を明確にし、「AWSを導入することで何を解決したいのか」「どのような状態を目指すのか」という具体的な目的と目標を設定することが極めて重要です3。例えば、「新サービスの市場投入までの時間を3ヶ月から1ヶ月に短縮する」「ウェブサイトのレスポンスタイムを平均0.5秒以下にする」「ITインフラコストを年間20%削減する」といった具体的な目標です。
- 目的が明確であれば、どのAWSサービスを利用すべきか、どのようなアーキテクチャを設計すべきか、という判断基準が明確になり、プロジェクトの成功確率を高めることができます。
AWS構築は単なるサーバープロビジョニング以上の意味を持ちます。それは、ビジネス目標を達成するための戦略的アプローチであり、技術選定、アーキテクチャ設計、セキュリティ、コスト管理、そして継続的な運用と最適化を含む包括的な活動なのです。物理的なインフラの制約から解放されることで、企業はより迅速に、より柔軟に、そして多くの場合より経済的にビジネスニーズに対応できるようになりますが、その恩恵を最大限に享受するためには、クラウドの特性を深く理解し、計画的に取り組むことが不可欠です。この視点が欠如すると、クラウドの利点を活かせないばかりか、予期せぬコスト増やセキュリティリスクに直面する可能性もあるのです。
まとめ:AWS構築の全体像と本連載で学ぶこと
今回は、「AWSシステム構築マスターシリーズ」の第1回として、「AWS構築とは何か」という根源的な問いから始め、その定義、広大な適用範囲、享受できる数多くの利点、そして見過ごすことのできない潜在的な課題と考慮事項について解説しました。
AWS構築とは、AWSの多様なサービス群を戦略的に活用し、ビジネス要件を満たすシステムを設計、実装、運用していく一連のプロセス全体を指します。その範囲は小規模なウェブサイトから、複雑なエンタープライズシステム、大規模データ分析、最先端のAI/ML活用まで、あらゆるITニーズをカバーします。初期費用の削減、柔軟なスケーラビリティ、高い可用性、堅牢なセキュリティ、迅速なグローバル展開、イノベーションの加速といったメリットは、企業が競争優位性を確立し、成長を続ける上で強力な武器となります。
しかしその一方で、コスト管理の複雑さ、高度な専門知識の必要性、セキュリティにおける責任共有モデルの理解、ベンダーロックインの可能性、そして何よりも明確な目的設定の重要性といった課題にも真摯に向き合う必要があります。これらの要素を総合的に理解し、バランスの取れたアプローチを採ることが、AWS構築を成功に導く鍵となります。
本連載では、今回概観したAWS構築の世界を、さらに深く、より実践的なレベルで掘り下げていきます。今後の記事では、以下のようなトピックを予定しています。
- AWSエコシステムと主要サービスの詳細解説: AWS構築の「部品」となる各種サービスについて、その機能やユースケースを具体的に解説します。
- AWS構築のライフサイクル: 計画、設計、実装、テスト、運用という各フェーズで何をすべきか、ステップバイステップで解説します。
- AWS Well-Architected Framework: AWSが提唱するベストプラクティス集を活用し、高品質なシステムを設計するための原則を学びます。
- Infrastructure as Code (IaC): CloudFormationやCDK、Terraformといったツールを用いたインフラ自動化技術について解説します。
- 代表的なアーキテクチャパターン: ウェブアプリケーション、データ分析、サーバーレスなど、具体的な構成例を紹介します。
- コスト管理、セキュリティ、パフォーマンス最適化の深掘り: 各重要事項について、より具体的なテクニックやベストプラクティスを解説します。
AWSという強力なプラットフォームを最大限に活用し、ビジネスの成功に繋げるためには、継続的な学習と実践が不可欠です。本連載が、その一助となれば幸いです。
次回は、「AWS構築の基盤~AWSエコシステムと主要サービスカテゴリ入門~」と題し、AWSの広大なサービス群を理解するための基礎知識と、主要なサービスカテゴリについて詳しく見ていきます。ご期待ください。
